長楽館は京都出身の実業家 村井吉兵衛の京都別邸として竣工しましたが、その目的は単に自身が滞在することではなく、当時外国の賓客をもてなすための施設がなかった京都に「迎賓館」を建てることにありました。
1階~中2階には主要な接客機能として食堂や客間、男性向けの娯楽機能として喫煙室・球戯室・温室、そして2階は西洋式の宿泊施設、3階は日本式の接客機能が意図されています。
村井吉兵衛は、あらかじめおもてなしのために必要な機能を計算して建築した上で、完成後も幾度も改修を重ね、迎賓機能のさらなる向上を図っていたことがわかっています。
長楽館の各部屋は、部屋の用途や位置に応じて床や天井の高さが巧みに調整・組み合わされています。
館内では「ここは何階でしょうか」という声をよくいただきますが、それは半地下・中2階・中3階の空間を使った、巧みな空間演出のため。
例えば、1階の食堂(LE CHENE)や客間(迎賓の間)等のおもてなしに重要な部屋は天井を高く設定。各部屋の位置と用途に応じて、巧みに室高を調整しています。一方で、屋外から外観を見たときの窓の位置は綺麗に揃っており、部屋ごとの窓の高さも細かく計算されていることがわかります。
玄関より足を踏み入れると眼前に広がる、堂々たる吹き抜けの階段。
館内は中央に広間と階段が据えられており、階段を囲むように各部屋が展開されています。
1階から2階へ上る途中、中2階前の踊り場は館内を見渡すように、ドーム型に内へと張り出し、2階から3階へ至る階段は高欄付障子窓が内側へ向き、洋から和への空間の切り替えが巧みに演出されています。
ルネサンス、ロココ、バロック、セセッションをはじめとした西洋様式、そして中国やイスラム、日本様式。
長楽館館内はあたかも芸術様式の宝庫のように、世界各国の様式美で構成されています。
外観やロビーはルネサンス様式、1階の迎賓の間はロココ様式を基調としていますが、それぞれに配置された家具もまた、その空間の様式に合わせたものが使い分けられています。
これまで紹介した4つの特長をひとつの建築として破綻なくまとめあげられたのは、やはり設計・監督者の技量があってこそでした。
長楽館の設計・監督を担当したのはアメリカ人建築家J.M.ガーディナー。
明治13年に来日し、立教大学校(現立教大学)の初代校長を勤めた人物で、美術史を学び、西洋の建築様式に精通していたと言われます。
彼は建築家として、旧遺愛女学校本館や旧日本聖公会京都聖約翰教会堂等の建築を手がけました。